コラム 数学・数学者

キャサリン・ジョンソン|軌道計算でアポロ宇宙計画に貢献したNASAの黒人女性数学者

日本時間2020年5月31日、スペースX社のクルードラゴンがNASAの宇宙飛行士2名を乗せて国際宇宙ステーションに向けて打ち上げられました。民間企業初の有人宇宙船打ち上げ成功のニュースに、世界中から大きな注目が集まっています。

さて今回はこの成功から遡ること約60年、1950年代から30年以上にわたりNASAの宇宙計画を支えた女性数学者、キャサリン・ジョンソン(映画『Hidden Figures』(邦題:ドリーム)のモデル)をご紹介します。

Katherine Coleman Goble Johnson
1918年8月26日 - 2020年2月24日

本日,我々は彼女の101年の人生を祝い,人種的および社会的障壁を打ち破った,彼女の卓越した遺産を称える。

2020年2月24日,NASAはツイッターで一人の女性数学者の死を伝えました。なぜNASAがそこまでしたのか。それは彼女なくしてはアポロ月面着陸が達成できなかったからに他なりません。

幼少期よりずば抜けた数学力を発揮

1918年8月26日,キャサリン・コールマン・ゴーブル・ジョンソンはウェストバージニア州ホワイト・サルファー・スプリングスでジョイレットとジョシュア・コールマンの間に4人兄弟の末っ子として生まれました。

黒人──アフリカ系アメリカ人として生まれたキャサリンの人生は苦難の克服の連続でした。彼女を支えたのが自身の卓越した能力──数学です。幼い頃から計算に卓越した能力を示しました。

しかし,キャサリンが住む所では黒人の公立学校への入学は許されていませんでした。両親は子どもたちが入学できる高校を見つけだします。キャサリンは3学年飛び級をして14歳で高校を卒業,ウェストバージニア州立大学に入学します。

大学時代,キャサリンはずば抜けた数学の実力のおかげで,優秀な指導者にも恵まれます。化学者で数学者のアンジー・ターナー・キング,数学で博士号を取得した3番目のアフリカ系アメリカ人ウィリアム・シーフェリン・クレイターなどです。

中でもクレイターは,大学にキャサリン専用の新しい数学コースを追加するという待遇ぶりです。キャサリンは18歳で数学とフランス語の学位を取得し卒業します。

数学者を夢見ていたキャサリンとNASAとの出会い

キャサリンは小さいときからの夢を見続けていました。数の世界を探求する数学者になることです。しかしそのときは女性数学者の職はありません。キャサリンは小学校の数学の先生になりますが,夢を諦めることはできませんでした。

1953年,彼女の夢が実現するときがやってきました。アメリカ航空諮問委員会(NACA)に数学者として就職することができました。キャサリンは「コンピューター(計算する人という意味)」として働き始めます。組織での差別──黒人と女性であることに負けることなく,キャサリンはキャリアを確実に積んでいきます。

1957年,ソビエトが世界初の人工衛星の打ち上げに成功──スプートニク・ショックをきっかけに米ソ宇宙開発競争が幕を切りました。1958年,NACAはNASAに変わり,アメリカはマーキュリー計画──有人宇宙飛行計画をスタート。キャサリンは航空宇宙技術者として働き始めます。

1961年のアラン・シェパード氏によるアメリカ初の宇宙飛行およびマーキュリー計画における弾道飛行実験、1962年の宇宙船フレンドシップ7による地球周回飛行の計算をキャサリンが担当。そのときの宇宙飛行士ジョン・グレンは,導入したての電子計算機の計算結果を信じることができず,キャサリンに再度計算させない限り飛ばないと言わせるほど、キャサリンは信頼されていました。

アポロ計画での活躍

そしてキャサリンの実力が発揮されることになる大舞台がやってきます。1969年から始まるアポロ計画です。1969年7月20日,アポロ11号,史上初の有人月面着陸に成功。同年11月14日,アポロ12号も有人月面着陸に成功。

続く1970年,アポロ13号は月に向かう途中で爆発事故を起こします。クルーを地球に戻すための死闘が宇宙船とヒューストンの間で始まりました。キャサリンは最も困難な軌道計算を行います。クルーが地球に戻るための安全な軌道を見つけることです。

アポロ13号は自由帰還軌道からそれてしまっていました。いかにして軌道を戻すか。ついに数時間に及ぶキャサリンの計算は完了し,そのおかげでアポロ13号は無事地球に生還しました。

その後,キャサリンはスペースシャトル計画,火星探査などのプロジェクトに取り組みます。在職中に著した共著論文は26本。1986年に引退しました。2015年に,バラク・オバマ大統領はキャサリンに大統領自由勲章を授与。

まさにアメリカンドリームを実現したキャサリン。彼女の足跡のすべてが,自らの数学とともに登り続けた栄光の階段(Steps)だったのです。2020年2月25日,前日に続けてNASAはツイートしました。

私は道路までの歩数(Steps),教会までの歩数(Steps)… 数えられるものは何でも数えました。

キャサリン・ジョンソン

少女時代,キャサリンはすべてを数えた。数学者として,彼女の計算は,宇宙旅行における我々の初期の成功に決定的であることが判明した。

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桜井進(さくらいすすむ)様

1968年山形県生まれ。 サイエンスナビゲーター®。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。 (略歴) 東京工業大学理学部数学科卒、同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。 東京理科大学大学院非常勤講師。 理数教育研究所Rimse「算数・数学の自由研究」中央審査委員。 高校数学教科書「数学活用」(啓林館)著者。 公益財団法人 中央教育研究所 理事。 国土地理院研究評価委員会委員。 2000年にサイエンスナビゲーターを名乗り、数学の驚きと感動を伝える講演活動をスタート。東京工業大学世界文明センターフェローを経て現在に至る。 子どもから大人までを対象とした講演会は年間70回以上。 全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など様々なメディアに出演。 著書に『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。 サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。

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